感想&考察&雑感置き場その2

玲司関連のことなど。

玲司は下まつげキャラか問題
罪罰玲司のネクタイの柄問題 <新>
トリックスターの境界に立つ玲司
  神話上のトリックスターの概略
  トリックスターのバリエーションと定義の範囲
  ペルソナシリーズの世界の状況
  玲司のトリックスター性
  アルカナを決定づけるもの
  フィレモンの賭けーー武多とトロと玲司
  玲司の選択ーーもうひとつの力の根源 [加筆]
  結論・玲司はトリックスターか?
  あとがき・「約束」
付・トリックスター関係の雑談
  アルカナとトリックスターのこと
  トロ君は実はトリックスター?
  神取、麻希とギリシャ神話 [追記]
  ペルソナシリーズの主人公は「ロウヒーロー」か?
付・トリックスターとP5のこと
玲司の将来は意外ではないという話ーー「恐れ」と「財産」
ぺご君の鷹司君要素まとめ

更新:2018年11月12日 

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玲司は下まつげキャラか問題 [2017.4.26]

 ペルソナ、と言いますか金子キャラと言えば下まつげ! 印象に残りますよね。どの金子キャラにも下まつげがあるのなら、とりたてて「下まつげキャラ」は存在しないのでは、という問題。
 結論から言うと、玲司は下まつげキャラです。金子キャラはデフォで下まつげが描写されているイメージがありますが、よく見ると下まつげ描写が無いキャラも多いのです、特に男性キャラ。
 異聞録では下まつげ描写がある男性キャラはピアス(主人公)、玲司、神取。下まつげ描写が無いのはマーク、南条くん、ブラウン、あとただし君など、他の脇役男性キャラクター(イケメンの内藤君は若干あるような)。
 罪罰でも下まつげ描写の無い男性キャラは多く、意外にも淳君にはなかったりします、美少年なのに! 玲司達は置いておくとして、ピアスのような美少年には下まつげ描写があるのかなって思っていたのですが(女性キャラにはほとんどあるので)、まごうことなき美少年キャラの淳君に無いのなら必ずしもそうした法則ではないということ……。
 なわけで、下まつげ描写があるのは美少年などを示す単純な記号ではなく、ちゃんとしたキャラの特徴のパーツと捉えていいようです。金子キャラがみんな下まつげだと思ったら大間違いだ! ということで、玲司(及び神取さん)は純然とした下まつげキャラなのです。







罪罰玲司のネクタイの柄問題 [2018.11.12]

 『ペルソナ2 罪・罰』に登場する玲司は、サラリーマンなのでスーツ姿です。紫のスーツに濃いグレーのシャツ。普通の勤め人とは思えないコーディネートですが、ここはペルソナ世界なので普通! 全ては金子ブランドのデザインなのだ! ということでそれはひとまず置いておきます。
 が、しかし、ネクタイの柄が手錠……?? 正直「なんで手錠?」でしたが、公式本の情報などから、ようやく腑に落ちる解釈を得ることができました。
 私が出した結論は、「(異聞録の)玲司のイメージアイテムが手錠だから」です。
 公式本『女神異聞録ペルソナ デジタルコレクション』に掲載されている開発者インタビューの中で、玲司のモデルについて触れられています。その中のひとつが漫画『男組』の主人公・流全次郎です。流全次郎は手錠をした姿で戦う少年で、玲司にはその手錠のイメージが継承されているようです。当初は本当に手錠をしているぐらいにしたかったそうですが、最終的に鎖付きの首輪のデザインへと昇華されたと思われます(他にそれらしいアイテムが見当たらないですし)。つまり、異聞録玲司の時点で、あの首輪には手錠のイメージがあったのです(言われなきゃわかんないよね……)。
 そして罪罰ではサラリーマンなので首輪はネクタイへ。ネクタイに手錠のイメージを持たせるため、その柄になった、ということだと思われます。







トリックスターの境界に立つ玲司 [2017.5.4]

 異聞録の中で、玲司が特殊な立ち位置のキャラクターであることは言うまでもありません。ゲーム進行上では隠しキャラとなっており、仲間にするには一苦労が必要です。そして隠しキャラにも関わらず、メインストーリーであるセベク編に大きな関わりを持つ身の上。また、使用できるペルソナがどれも不吉な意味を持つ特殊なもので、他のキャラクターたちのペルソナはおおよそ仲間同士で代替がききますが、玲司のペルソナは代替ができず、ペルソナ的に孤立しています。
 そのようなわけで玲司は、主人公(ヒーロー)に対して影の主人公(ダークヒーロー)的であるとか、トリックスター的である、と多くの人にイメージされているようです。
 「トリックスター」とは神話や物語の中での「類型(アーキタイプ、ステレオタイプ)」のひとつで、かいつまんで言うと「境界(複数の世界)を行き来し、膠着・停滞した秩序や文化、規範を破り、価値観の再構築をする者」です。
 異聞録及びペルソナシリーズの元ネタであるユングの『元型論』では、人間の心理の深層に領する集合的無意識(個人の意識や経験を超えた、集団、民族ーーひいては人類すべてに共通する先天的な領域)の中で共有している作用点「元型」のひとつとされています(大雑把に言うと、人類に共通する心理の働きであるため、世界中の神話や物語に「トリックスター」という型が発現している、ということ。またその逆)。

 P5では「トリックスター」という言葉が表立って使われ、そのように言われがちな玲司についても興味を持ち、ちょこっと調べてみました。結果的に私も、玲司は最終的にトリックスターだと思うに至りました。それについて、一度がっつり妄想解釈してみようと思います。と言っても、そこまでまわりくどく書かんでも知ってるよ〜って事が多いと思います。でも一度、形にしてみたいと思ったのです。


神話上のトリックスターの概略
 ※ここは興味があったら読んでください。
 神話や物語上でのトリックスターについてもう少し詳しく説明しますと(私が集めた資料と解釈の限りですが)、先に述べたような「境界(複数の世界)を行き来し、膠着・停滞した秩序や文化、規範を破り、価値観の再構築をする者」という概略は、様々な要素によって構成されます。
 まず、トリックスターの出自は様々だが、どこにも属さない放浪者であったり、ふたつの世界(身分や種族が異なる親)のあいの子であったりする。
 行動の動機は「食欲」「性欲」「恥(被差別階級)」など。彼らはそれにより行動を起こすが、それそのものを満たしたり脱しようとするだけでなく、一歩引いてそれらの循環(食欲であれば、食べる・食べられるという循環の輪)自体から逃れられないかと画策する。
 そして実際に起こす行動は「詐術(嘘、変身(性別すら変える)、両極のものを入れ替えるなど)によって騙すor騙される」「盗む」「汚す、汚れる(汚濁、糞便)」「放浪(境界の行き来)」など。
 それによる結果は「幸運や恩恵or不運や災い(特に、本人の意図しない結果)」をもたらすが、いずれであっても同時に「価値観の再構築(一見すると新しい価値観の創造)」「再生が約束された破滅(停滞したものを動かす契機、世界の再生)」などの意味を持ち、何にせよ世界は螺旋構造の先へ進む。
 また、彼らの行動の背後には常に「没道徳(反道徳ではない。道徳性自体が無いということ)」「無秩序」「偶有性(アクシデント)」があり、「機知」「話術(概して人を魅了するところがある。「憎めない」感じでもある)」に長ける。
 そして、彼らの活躍する背景・状況には「膠着、停滞、袋小路化した秩序や文化、規範」があり、その状況には概して「清浄、神聖すぎる」などの原因があります。彼らはそれを意図の有無に関わらず結果的に打破し、再生の契機を与えます。その破壊は全てをゼロにするのではなく、ばらばらにするということ。再生は一から新しいものを生むのではなく、一度ばらばらにしたものを再構築する、というものです。


トリックスターのバリエーションと定義の範囲
 ※ここも興味があったら読んでください。
 トリックスターには高等なものからそうでないものまで様々に幅があり、高等なものは神話の中で人類に恩恵をもたらす「文化英雄」と呼ばれます。例えばギリシャ神話のプロメテウスは人間に火をもたらしたことで有名(だが、火と同時に人間に争いや死ぬ運命をもたらしてもいる)。世界中の神話にトリックスターは登場し、他にはギリシャ神話のヘルメス、北欧神話のロキ、ネイティブアメリカンの神話のコヨーテやワタリガラス、日本神話のスサノオノミコト、など。
 難しいのは、トリックスターに限らないのでしょうが、時代をくだるにつれてバリエーションが増え、亜種がたくさん現れ、どこまでをトリックスターの範疇に含めればいいのか、線引きが難しいということです。(前章に書いた要素は上に列記したもの近辺のもの。)
 今日「トリックスター」と言う言葉で多くの人が思い浮かべるものは、後世に生まれたトリックスターの発展型の「ピカレスク(悪漢)もの」ではないでしょうか。これ自体も当初は原初のトリックスターに近い様相の存在でしたが、時代がくだるにつれてバリエーションが増え、たぶん現在は「義賊もの」というイメージが強くなっていると思います(P5がまさにそれかも)。
 「義賊もの」までいってしまうと、それはトリックスターの原初の要素である「没道徳」ではなく「反道徳」になってくると思うので、含めていいかというと……でも「盗み」とか「秩序の破壊」とかはあるし……うーんどうなんでしょうねえ。専門家じゃないのでよくわかりません。が、めんどいのでここでは「義賊もの」は「広義のトリックスター」としておきます。適当! でもなるべく、原初の要素の方を重要視していきます。

 最初に「玲司はダークヒーロー的、トリックスター的と言われる」とありましたが、実のところ多くは上記の、トリックスター→ピカレスクもの→義賊→ダークヒーロー、っていう連想というか、イメージの混同によるものだと思います。
 それでも、ダークヒーローのルーツにトリックスターがいるのは事実で、全く無視できるものでもありません。ここでは、ルーツであるトリックスターの欠片をさがして行くこととします。


ペルソナシリーズの世界の状況
 ところで上記2章で気づいた方もいると思いますが、トリックスターとはペルソナシリーズの世界観でいくと、ニャルラトホテプの側の存在なのです。実際、ニャルラトホテプはクトゥルフ神話の中のトリックスターです。
 フィレモンとニャルラトホテプは対の存在で、のちの『罪・罰』によればフィレモンは「人間の精神のポジティブな部分」が存在化したものらしいです。そして、ニャルラトホテプはその逆でネガティブ。いずれもそのものが「善」「悪」という決定的なものなわけではないと思われ、フィレモンは人間がポジティブで建設的、創造的な方向へ行くように導こうとし、ニャルラトホテプはネガティブな混沌、破滅へ導こうとするようです。そしてそれに強制力はなく、言うなれば「囁く」だけで、決定権は個々の人間にあります。(『罪・罰』では結構ぐいぐい来てましたけども。)
 基本的にペルソナシリーズの状況はニャルラトホテプ優勢、フィレモン劣勢の状態で、主人公たち「ヒーロー」は世界のバランスを取り戻すべく、劣勢であるフィレモンに組みしています。そのためニャルラトホテプは悪のようなものとして我々の目に映りますが、フィレモンも行き過ぎれば人類にとって悪のようなものになるはずです。女神転生シリーズをやっている方にはお馴染みだと思いますが、「CHAOS(混沌、無秩序)すぎる場合」に対し、「LAW(秩序)すぎる場合」もあるのです。結局はバランスであり、彼らはそのバランスゲームを常にしているのだと思われます。
 (ちなみに思ったのですが、P5までシリーズを重ねてきたところ、全体的に人類は黙っていればニャルラトホテプ側である混沌、破滅の方へ流れて行く性質があると思われ(水は低きに流れるってやつ)、逆転した状況はそうそうありえないのだと思います。でも、可能性としてはゼロじゃないですよね。)

 そうなると、異聞録では通例通りニャルラトホテプ優勢、フィレモン劣勢の状況なのだから、トリックスターは存在し得ないことになります。て言うか、実際そうだと思います。
 では玲司がトリックスターって話は最初から無理なのでは、ということになるのですが……私は一概にそうも言えないと思っています。玲司は最終的にトリックスターだと思うのです。
 ひとまず状況のことは置いておいて、玲司をめぐるトリックスター性というものを考えていきます。


玲司のトリックスター性
 まず、玲司の物語上の役割を考えてみます。……が、これについては行を割くまでもなく、玲司以外のキャラクターを選択しても物語は完結しますから、特別な活躍は無い、と言えます。
 (うがった見方をしますと、ゲームの仕様上、玲司ルート以外でもちゃんとクリアできないといけないため、玲司に特別大きな役割を持たせるわけにはいかなかったのではないか、とも思えます。キャラクター設定上、大きな役割を持たせる流れが自然なのに、という。個人的には残念ですが仕方ない。)

 では、物語以外の面ではどうかと言うと、例の「ペルソナ的孤立」はひとつのトリックスター的要素に思えます。
 異聞録に登場する敵キャラクターのペルソナのアルカナは公開されていませんが、唯一推察されるのが神取のペルソナ・ニャルラトホテプのアルカナが「TOWER(塔)」らしいということです。「TOWER(塔)」のアルカナはタロットカード的には最も不吉な意味を持ちます。22のアルカナの中で、不吉な意味を持つものは他に「DEATH(死神)」「DEVIL(悪魔)」といったところ。
 異聞録の中で、敵である神取のアルカナが「TOWER(塔)」。そして玲司と相性の良いペルソナのアルカナが「DEATH(死神)」「DEVIL(悪魔)」「TOWER(塔)」。他のキャラクター達はこれらとの相性は良くなく、ほぼ使用できません。本来であればこれらネガティブなアルカナは、敵側のキャラクターが持つ、ニャルラトホテプ側特有のものではないかという想像が難くありません。玲司はただひとり、これらをフィレモンや主人公たち味方の側へ力としてもたらしてくれる存在なわけです。
 では、なぜ玲司はそれらを持ち得るのか、そしてフィレモンの側へもたらすのか。次はそれを解釈するために、まずはアルカナを決定づけている玲司の心の動きを考えていきます。


アルカナを決定づけるもの
 玲司というキャラクターを一言で言い表すと「憎悪」でしょう。私見ですが、いろいろな方の二次創作の絵の中の玲司を拝見すると、不機嫌な表情をしているか、怒っていることが多いです。て言うか私自身もよくそう描きます。実際の公式の絵の玲司は全て笑っているにも関わらずです(ニヒルな感じですけどね)。それは、ゲームを通して感じる玲司のイメージを総じたものでしょう。彼は実際「憎悪」や「怒り」に突き動かされて行動しているのです。
 玲司の「憎悪」は、愛人であった母を捨てた父への憎悪。父は母に暴力を振るい、玲司自身もその犠牲になっています(額の傷)。玲司の憎悪と復讐は母の名誉のため、つまり根源は「母への愛」です。それに復讐の相手は神取で、彼は今回の物語の「悪役」だということに間違いはありません。悪を討つ、それならば玲司の行動は「正義」というポジティブなものということになりますが、果たして本当にそうでしょうか。
 ゲーム中に一度だけ玲司の母が登場します。彼女は玲司の友達付き合いの悪さを心配していて、初めて会った主人公に「仲良くしてやってほしい」とお願いをするほどです。それは玲司に、友達に囲まれて過ごすような普通の幸せを願っているということで、おそらく復讐をしてほしいなどとは思っていないでしょう。玲司は復讐を母のためと言っていますが、母はそれを望んでいない……つまり、復讐は玲司の身勝手なのです。
 さらに言えば、玲司も超〜〜バカではありませんから、復讐すなわち殺人を犯した者が社会的にどう裁かれるかはわかっているし、覚悟もしているでしょう。そしてその時、母が喜ぶか悲しむかも想像がついているはずです。それをわかっていても抑えられない衝動。もしくは、その想像からわざと目を逸らしているのか……いずれにしてもやはり、この復讐は玲司の身勝手に過ぎません。
 また、父親に受けた暴力を暴力で返そうという矛盾と短絡性にも無自覚です。嫌いな相手にわざわざ自分から似るように動いてしまっています。それほど彼にとって暴力は自然に湧き上がってくるものなのでしょう。
 そして肝心なのは、父はすでに病没してこの世におらず、その代わりとして異母兄である神取鷹久を復讐相手にしているということ。神取家そのものが憎いのだと言ってはいますが、苦しい言い訳に思えます。たまたま、神取鷹久が世界を破滅させようとする悪人であったというだけで、彼が普通の、又は善人である可能性もありました(このifについては『ペルソナ倶楽部』に言及があり、神取が普通の人だったとしても復讐すると述べられています)。これはお門違いの復讐だと言えるのです。
 このように、よくよく考えると玲司の復讐には大した正当性は無く、玲司の身勝手、自己満足、憎悪と怒りのやり場の無さ、暴力の衝動、道徳性の欠如、八つ当たり、などが見えてきます。さらに言えば、これらの隙間からちらちらと、何かの「弱さ」が垣間見えるようにも思えます。それもまたネガティブなものです。
 極端な話ですが、もしも玲司の母が父の暴力で死に、父はまだ生きているという状況であれば、玲司の憎悪と復讐には正当性があると思えます。しかし玲司の現実は逆で、憎悪の気持ちさえやり過ごせれば(そうしろというのも酷ではありますが)、そこは平穏なのです。本来平穏でいられる場所に、自分から波風を立てている状態。玲司は「母への愛」という善い心を根源にしながら、抑えきれない「憎悪」「怒り」に駆り立てられ、根源であるはずの「母への愛」さえ裏切りかねない間違った復讐、犯罪を行おうとしています。暴走と言ってもいいでしょう。本人にどこまで自覚があるのかは不明ですが……。
 そういうわけで、「DEATH(死神)」「DEVIL(悪魔)」「TOWER(塔)」というアルカナを持つのは、「憎悪」や「怒り」、コントロール不能の暴力の衝動というネガティブな心理を要因にしていると思われます。このように考えていくと、玲司にはやはりニャルラトホテプ側の要素を強く感じます。しかし、玲司はフィレモンの側としてその力を使います。それはなぜなのでしょう。


フィレモンの賭けーー武多とトロと玲司
 ここで少し話が変わり、フィレモンの行動について考える必要があります。
 異聞録ではニャルラトホテプは神取に働きかけ、もともと彼が抱いていた願望や心の暗部につけこみ、世界の破滅へと導こうとします。それに気づいたフィレモンは、世界のバランスが崩れるのを阻止するため、現場である御影町の不特定多数の人々の精神に接触し、その中の幾人かをペルソナの力に覚醒させます。
 それはもちろん主人公たちなのですが、その中にはトロや(セベク編では出ませんが)、神取の部下の武多もいます(※武多がフィレモンの接触によってペルソナ覚醒したか否かについては公式の見解が書籍によって異なっており、『公式ガイドブック』では否定、『ペルソナ倶楽部』では肯定されています。ここでは後発且つ武多について詳しく書かれている『倶楽部』の説を支持します)。結果的に主人公たちはフィレモンが望んだ通りに、ニャルラトホテプに対抗する行動を取ってそれを遂行しますが、ではトロや武多は一体なんなのか。
 トロは精神力が半端だったために覚醒も半端で失敗したケースと考えられますが、武多はちゃんと覚醒していました。でも彼は神取、すなわちニャルラトホテプの側についています。これはなぜなのか。フィレモンが覚醒をうながしてもその後の選択が本人次第なのであれば、はじめから善い方へ動いてくれそうな人に接触すればいいのでは、という疑問です。武多はもとから神取の部下らしいですし、何やら歌手になるというポジティブな夢は持っていたようですが、特別善良な人物というわけでもないようです。
 そして、ここで玲司もその疑問に浮上してきます。玲司は神取に敵対するという点ではフィレモンの望む人物ですが、彼の行動の動機は「憎悪」。これはむしろニャルラトホテプが好むネガティブな精神です。一歩間違えれば玲司もニャルラトホテプにつけこまれ、フィレモンに敵対するかもしれません。しかも、ペルソナの力に目覚めていればなお強敵となってしまいます。
 なぜ、フィレモンは玲司にも接触したのか。これは単純に、「確率の低い賭け」なのではないでしょうか。そう言うとなんかひどい感じですが、おそらく当たった時には他にはない恩恵があり、大ハズレの時はこちらが大ダメージをくらう、というような、普通より確率が低く、メリットとデメリットが倍率ドンな賭け対象。そういうギャンブルってありますよね。
 つまり武多はハズレで、主人公たちを妨害するペルソナ使いになってしまった。トロもそうでしょう。そして、玲司は当たりでした。
 ここで言う「当たり」「ハズレ」、これは何によって決まるのか? それは本人の意志です。フィレモンもニャルラトホテプも「囁く」ことしかできません。選択は本人に任され、玲司もまた自分で選んだのです。
 では次に、なぜ玲司がフィレモンの側を選んだのかを考えていきます。


玲司の選択ーーもうひとつの力の根源 (2017.5.16加筆)
 母への愛という穏やかなもの、憎悪や怒り、暴力の衝動という危険なもの、そうした極端な清濁を併せ持つのが玲司です。
 玲司は物語を通して心に様々な変化を起こしますが、これまでの「憎悪」がゼロになったかと言うとそんなことにはなっておらず、ただ、少し冷静に考えられるようになった、という具合でしょう。
 「憎悪」や「怒り」、それらは玲司にとっても世界にとっても不要なものではなく、むしろ必要で貴重な要素に思われます。ネガティブなものはポジティブなものと同じように個人の心や世界を構成する基本的な要素で、全て失ってはいけないものです。主人公たちが玲司のアルカナを使えないように、それら強いネガティブな力を持ち合わせない者もいるのですから、失ってしまうのは世界にとって危険に思えます。まるでフィレモンとニャルラトホテプが世界のバランスをとっているかのようです。
 ただ、両極端なものをバランス良く扱うのは難しい。それらの境界に立つにしても、いつどちらかに転ぶともわからないような不安定さでは困ります。実際、物語の序盤の玲司の足元には危うさがあります。誰かが止めなければ悪の一線を超えてしまいそうな勢いなのです。玲司はその扱いの難しいものを、物語を通して安定して扱えるようになった(なりつつある)のではないでしょうか。
 その安定を玲司にもたらしたものは何か? それは物語上での玲司の変化を見ていけば、おのずと見えてきます。物語の序盤から後半へかけて、玲司の心理に変化が起きているのはプレイしたことのある方ならばおわかりのはず。その安定をもたらしたものは「友情」に間違いありません。
 玲司は物語の当初、主人公たちに冷淡な態度をとり、心を頑なにして開きません。彼は「憎悪」による復讐で忙しいのですが、そこにはもうひとつの隠された理由があるようです。
 「友情」は、異聞録の物語を通して玲司が得た最も大きなものでした。しかし、「得た」ということは同時に「失う可能性がある」わけです。玲司がそれまで母以外の誰にも心を開かなかったのは、友達を得た瞬間に生まれる喪失の可能性と、喪失した時に受ける手ひどい傷への「恐れ」のためです。実際、過去に友達だと思っていた人物に裏切られ、傷ついた経験があったことをうかがわせるセリフがあります。そして友達ならば、友達を守らなくてはならないという責が生まれ、そのために母の守りが手薄になることへの「恐れ」があったと公式の中で言及されています(『ペルソナ倶楽部』より)。
 おそらく、玲司は物語を通して「友情」にその「恐れ」をカバーして余りある価値と力を見出したのでしょう。「恐れ」は玲司のネガティブな力の根源の、隠されたもうひとつの力なのかもしれません。「憎悪」のように外へ向かった攻撃的なものではない、内側へ向かった「弱さ」です。それは玲司をどちらかの側へ不意に転ばせる可能性のある、ウィークポイントだったのではないでしょうか。そのため、玲司はかたく心を閉ざしていました。
 そして玲司は「恐れ」を「憎悪」などのように全く捨て去ったわけではなく、持ち続けたまま生きる勇気や覚悟を生じさせることで克服したのだと思います。それは「友情」、ひいては「信頼」の力でしょう。
 なぜ捨て去っていないと言い切れるかと言いますと、異聞録の頃には確立されていませんでしたが、以降のシリーズ作品では自己のコンプレックスなどが強調された「シャドウ」という分身的存在が現れ、それと対峙して打ち勝った時にペルソナに目覚めたり、真の力を発揮することができるようになります。その時、強調されたコンプレックスを否定するのではなく、自己の一部であると肯定するのがキモとなっています。「こんなの自分じゃない」「こんなものいらない」と否定することでは克服にはならないのです。玲司に当てはめるならば、おそらく「恐れ」が描かれることでしょう。玲司の「恐れ」は捨て去るものではない、れっきとした玲司の一部なのです。

 玲司がフィレモンの側を「選んだ」のはなぜか。それはもう言うまでもないですが、単純に、友達にとってそちらが良い方向だったから、という理由だと思います。フィレモンがどうだろうと、世界がどうだろうと、玲司にはきっと関係なかったでしょう。世界と友達を天秤にかけたら、きっと友達を選びます。玲司は「友情」によって指向を選ぶのです(あと、お母さんね)。
 さきほど、「友達を守らなくてはならない」と述べました。公式本(『ペルソナ倶楽部』)によると、玲司の「守る」という行為は愛情表現なのだそうです。玲司は友達を守るために、最善のものを選ぶでしょう。

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↑序盤ではこんなこと言ってたのに(左)、これである(右)!(『女神異聞録ペルソナ』より引用 ⒸATLUS)



結論・玲司はトリックスターか?
 ここまでの章で、そもそも異聞録はトリックスターが存在する状況にないこと、玲司はニャルラトホテプ側のアルカナ(トリックスターの素養)を持つこと、友情によって自分の意思でフィレモン(仲間)の側を選んだこと、を述べました。
 玲司がトリックスターかどうかを考えるとき、最も重要なのは「そもそも異聞録はトリックスターが存在する状況にない」ということでしょう。そもそも存在し得ないのなら、「玲司はトリックスターではない」と言い切れます。
 が、……私が食いさがったのは、玲司は異聞録以降も生きているという事実があるからです。彼は罪罰にも登場し、そこでも生存しています。生きている限り、世界に逆転した状況がやってくる可能性はあり、その時玲司は真のトリックスターになるかもしれません。何しろ素養は備わっているのですから。
 ここで、思い出された方もいるかと思いますが、玲司はペルソナシリーズ史上でも屈指であろうある謎を持っています。ペルソナ・ニャルラトホテプです。
 神取はニャルラトホテプから直接の接触を受けたために、そのものをペルソナとして発動できた特例だろうと思うのですが、なぜか玲司はそれを受け継ぐことができました。ニャルラトホテプはフィレモンと対であるほどの根源的な存在です。神取と血縁だとか、アルカナが適合していたから、というだけで得られるような代物ではないように思えます。
 基本的にペルソナシリーズでは、ニャルラトホテプの側である破滅や混沌へ世界が向かいすぎた時を物語の舞台にしていますが、その逆が無いとは言えないということはすでに述べました。その逆の時、ニャルラトホテプは袋小路化した世界を打ち砕いて活性化をもたらす、必要なトリックスターとなります。
 そういう意味で、玲司が持つニャルラトホテプはいろんな意味での「安全装置」であり、同時に危険な「戒め」のように思えます。このペルソナを真の意味で使う状況になった時、玲司は物語上での真のトリックスターになるのかもしれません。少なくとも、その可能性が暗示されているように思われます。
 そのようなわけで、玲司を「トリックスターではない」と言い切るのは惜しい気がするのです。言い切れるのはあくまで異聞録と罪罰までの話。もちろん、他のキャラクターたちも状況によってはトリックスターとしての態度を取る可能性もあります。が、玲司のアルカナの特性、そして遺されたペルソナ・ニャルラトホテプ。玲司が他のキャラクターたちよりも圧倒的にトリックスターに近い場所にいるのは間違いないでしょう。

 では、そうした玲司をなんと呼べばいいのか。
 フィレモンの側で活躍する主人公たち。彼らは異聞録の世界の状況を正当に打破する「ヒーロー」です。それならば、同じくフィレモンの側を選んだ玲司もヒーローのはず。そして無視するには余りあるトリックスター性。
 この表現が正解かどうかはわかりませんが、玲司は言うなれば「半トリックスター・半ヒーロー」ではないでしょうか。ペルソナは「トリックスター」の素養であるネガティブ、そしてそれをポジティブな指向で行使する「ヒーロー」です。
 トリックスターにとって重要な要素「境界」。奇しくも、玲司はトリックスターとヒーローの境界に立つ者になったのではないでしょうか。


あとがき・「約束」
 という、私のくどい妄想解釈、いかがでしたでしょうか。
 異聞録、罪罰以降も含めちゃうんならなんでも言えるんでは……とは思うんですが、それでも玲司のトリックスター性、その可能性は以降のシリーズ作品の中でも突出していると思うのです。それはやっぱり、ペルソナ・ニャルラトホテプの存在が大きいでしょう。
 なぜニャルラトホテプが使えるのか。メタ的な話になりますが、それは単なる洒落というか、おまけ要素だとは思うのです。それを言っちゃあ……ですが、たぶん真実はその程度でしょう。ペルソナ・ニャルラトホテプを得たことによるストーリー展開は特にないわけですし。罪罰でものそこへの言及はありませんでした。しかし、作品の中で起きたことを簡単に無かったことにしないのがオタクの本懐(?)。全てひっくるめて意味付けてこそのオタクですよ。
 玲司が異聞録の中でイレギュラー的な立ち位置に設定されているのは間違いなく、ニャルラトホテプを使えることに大きな不自然さを伴わないのも事実。私はさほど大それたことは言っていないだろうと思います。ペルソナシリーズの中で生き残り、且つ最も特殊なペルソナを手にした玲司に、意味を見出したいのはファンとしては山々ではありませんか。私はそこへ「可能性としてのトリックスター」を言及しておきたいのです。
 この継承に様々な意味の「約束」めいたなにかが潜んでいるように思っているのは、きっと私だけではないはず。なぜ、世界をひっくり返しかねない危険なペルソナが存在するのか……。ペルソナシリーズの中でも屈指の謎、と言って過言ではないでしょう。と言っても、実際のところニャルはそんなに使えるスキル持ってないんだけどね! スランパ、ムドオン、デカバー、シバブー、アウトマ、雷霆蹴り。って、もうちょっとどうにかならんかったんか。
 この話を考えるにあたって、玲司が様々な「境界に立つキャラクター」であることの再確認ですとか、他にもいろいろな見逃していた点に気づくことがありました。そんな話もいずれ。
 ーーその「約束」を玲司に渡したのはフィレモンだったのか、ニャルラトホテプだったのか、何者でもない偶然なのか、死の間際に正気を取り戻していた神取だったのか。それとも、玲司自身だったのか。
 玲司は玲司ただひとりにしかかなわない世界の境界に立ち、果たすかもしれない「約束」を、今もずっと守っているのかもしれません。ーーと、思いたいですね!




付・トリックスター関係の雑談 [2017.5.3]

 トリックスターのことを考えた途中で思った断片的なことを書いていきます。こじつけっぽい連想話など。

アルカナとトリックスターのこと
 タロットのアルカナの解釈の中に、トリックスターを意味として含むものがあります。符号するかもなーって部分のメモです。
 最も言われるのが「FOOL(愚者)」。実際トリックスターは道化(アルレッキーノ、アルルカン)の元であり、非常に合致します。異聞録では「FOOL(愚者)」は全員が使えるオールマイティで、物語の層を俯瞰で見た時、ある層では主人公たちプレイヤーキャラクター全員が広義のトリックスターであることに符号すると思います。
 次に「DEVIL(悪魔)」、これは玲司のアルカナです。ルシファーなどの悪魔はよくトリックスターの代表に列しているのですが、これは実は難しいところのようです。そもそもの根拠は、キリスト教でアダムとイブに知恵の実を食べさせ、人類に知恵を与えたのが悪魔が化けた蛇だったから、というもののようです。ギリシャ神話のプロメテウスが人類に火をもたらしたように、人類に恩恵をもたらしたという図式。しかし、キリスト教の悪魔というのはトリックスターの重要な要素「没道徳」ではなく「反道徳」の色が濃いようで、一概に「悪魔=トリックスター」と言えるのかどうかは諸説分かれるところのようです。しかしアルカナの悪魔の解釈には「わけがわからない」という意味があり、それはかなりトリックスター的だと私は思います。トリックスターの行動や姿は、一見するとわけがわからない、という特徴があるのです。性格などのキャラ性から言えば、玲司はなかなか符号します。トリックスターの要素に「恥(被差別階級)」というのがあり、神話でも「私生児という出生」の設定が見られます。またトリックスターという言葉のそのものの意味は「詐欺師」であり、歴史上それは手品師が切っても切り離せません(これは意図して付けられた特技なんじゃないかと思います)。玲司は唯一転校生という立場なので、「放浪(越境)」でもあります。特に麻希ちゃんにとって玲司は完全に異界から来た人物(麻希ちゃんの世界に玲司は存在しない)なのでこの要素も強く感じます。それから著しく男性性を強調した姿は「性欲」を表すかもしれません。「性欲」に関しては、トリックスターは魅力的な男性で多くの異性に恋をされるという要素もあり、複数の女生徒に好意を寄せられるところが合います。
 それから次に「MAGICIAN(魔術師)」。これは解釈によって分かれますが、トリックスターの意味を持つこともあるようです。異聞録では綾瀬のアルカナです。綾瀬の初期ペルソナ『フーリー』はこのアルカナですが、完全に道化の姿をしているのが気になります。私は異聞録の主要キャラクターの中で最もトリックスター的性格(キャラクターの性格)が強いのは綾瀬だと思うのです。善いことも言うけど悪いことも言ってしまう「没道徳」で、かなり放縦、欲望に正直。人をからかったりして、トラブルも起こします。料理が得意なのは「食欲」っぽいし、設定的に援助交際を示唆しているところがあり「性欲」につながります。でも、最終的にはなんだか憎めない性格。綾瀬はかなり、トリックスター的です。
 それから、アルカナ的には符号しないのですが、性格面で言えばブラウンも当てはまりそうです。とにかくよく喋り、口がうまく、憎めないキャラ。御影町以外から通学しているというのも、トリックスターの「放浪(異界とこちらを行き来する)」っぽくも思えます。また、トリックスターには「汚れ(糞便)」という要素もあり、この要素を何にせよ持つのはペルソナシリーズの中でブラウンが唯一でしょうねえ……貴重です。
 あと、麻希ちゃん。悪魔交渉での「でまかせ」「怯えるふり」「おだてる」「頼む」はかなり口が上手い印象があり、「詐術」っぽくあります。ちなみにギリシャ神話のパンドラは、トリックスターであるヘルメスから嘘(詐術)を教わっています。
 さらに、神取さん。彼のアルカナは「TOWER(塔)」と思われます。アルカナ的にはこの塔が「神の家」か「バベルの塔」なのかで意味解釈は分かれるようです。バベルの塔は一種のトリックスター神話という解釈もあるようです。バベルの塔によって人類の言葉がばらばらになったことを災いと受け取ることもできますが、元々の神から授かった統一言語では真実しか話されず、言語自体も変わることはなく、ある意味で停滞・膠着の状態にあります。なので、それがばらばらになるのはトリックスターのもたらす破壊からの活性化であると言えるわけです。実際、人類は言語がばらばらであることで複雑な精神活動を得ています。さて神取さんの行動的にも、トリックスター要素があります。異世界と現実世界を行き来する「放浪(越境)」、異世界から現実世界へ神の力(コンパクト)を「盗む」、そして私欲な動機で動き、世界へ混乱をもたらす。ある意味では、彼の起こした一連の行動により、主人公たちの「平和すぎて停滞気味の生活」を破壊し、生き生きとした「生」を自覚させたという面もありますね。
 ほかのメンバーにも要素を探そうと思えば探せそうですが、基本的に秩序的なキャラクターはトリックスター的要素から遠いと言えます。マークはチャラそうな外見ですが義理人情に厚くて道理を重んじるタイプなので、意外にトリックスター性は薄いように思えます。一番遠いのはやはり特に南条君ですかね。南条君のアルカナは「HIEROPHANT(法王)」で、これは意味や図柄的に玲司の「DEVIL(悪魔)」と正反対のカードとされています。


トロ君は実はトリックスター?
 先の文章では「トロは失敗のケース」とだけ書いていますが、実際には意外にもいろいろな意味がありそうなキャラクターで、私は気になっています。
 彼は自分の欲求を自分でコントロールしきれず、中途半端な形でペルソナが発動してしまったと言われています。普通のペルソナは本人から分離して登場しますが、彼のペルソナらしきものは彼の体の一部となって登場しました。その姿はどう見ても男性器で、でも股ではなく腹から現れます。これは非常にトリックスターの特徴に当てはまります。原初的なトリックスターは特に「食欲」「性欲」を動機に動いており、姿もそれを誇張した者が多く存在します。ほとんど男性器と腸だけみたいな姿の者もいます。トロ君は食欲はもちろん、綾瀬に恋をしており、それは「性欲」につながると言えます。もしかしたら彼はトリックスターとしての素養をかなり秘めていたのかもしれません。
 また、彼のペルソナもアルカナは不明とされているのですが、その男性器っぽい姿から、一部ファンの間では不完全な「マーラ」なのではないかとも言われています。マーラのアルカナはシリーズ作品の中では「TOWER(塔)」です(ちなみに男性器的姿と言えば「ミシャグジさま」もあるのですが、ペルソナシリーズには登場していません(だよね?)。でも、ミシャグジさまってトリックスターっぽさがちょっとあって、トリックスター神として有名なヘルメスと共通点があります。もともと蛇のイメージの豊穣神で境界神であるとことか)。
 トロ君は『罪罰』ではサラリーマンで玲司の同僚です。玲司は営業成績が悪いがトロ君は成績が良い、という対比の立場に置かれています。異聞録では二人に接点はないのに、ここではセットです。
 連想するのは、『西遊記』の孫悟空と猪八戒。孫悟空はトリックスターで、序盤では不死の桃を食べるという「食欲」を示していますが、それ以後の旅のシーンでは特別「食欲」を示すエピソードはなく、代わりにその関係のエピソードは猪八戒が担っています。つまり、猪八戒は孫悟空の「食欲」が分離した存在と言えるわけです。そんなわけで、トロ君は異聞録でも罪罰でも、猪八戒的「食欲」を担当する「トリックスターの分身」のように思えます。彼はもしかしたら、本当はすごいのかも?


神取、麻希とギリシャ神話
 トリックスターの話からはちょっと離れますが、神話関係を見ていて思ったこと。
 昔から気になっているのですが、麻希ちゃんの「パンドラ」のこと。なぜ、パンドラなんでしょうか。たぶん、まだ希望があるよってことなんだろうと思ってはいるのですが、微妙に納得しきれていません。
 第一段階の男性器っぽさのある幼虫の姿はなに? エディプスコンプレックスを指しているんでしょうか。(ほぼマーラの形状。マーラのアルカナが「TOWER(塔)」ならば、その解釈「自らの作り出した強固な自意識の殻に閉じこもっていた状態から、何らかの外的要因によって開放された状態へと移り行く場面(Wikipediaより)」は物語を通して麻希ちゃんに起きたことに符号します。)
 そしてパンドラの幼虫→蝶へ羽化は何を意味しているんでしょう。この羽化はパンドラの持っている箱(甕)が開いたということなんでしょうか(蛹は「うつろ(空洞)」で箱とも言える)。蝶のパンドラ自体が「希望」? でも彼女は「諦めてくれ」と絶望を口にします。そしておそらく箱なのは彼女が守っているデヴァ・システム(動かせば災いが起きる)のことで、パンドラはそれを作動させようとしています。ということは最終的に麻希ちゃん=パンドラは箱を開けずに済んだということです。うーん、よくわかりません。いい解釈を持ってる方、教えてください。
 で、麻希ちゃんがパンドラだということで連想したことを。麻希ちゃんがパンドラであれば、神取さんはプロメテウス的かもしれませんね。
 プロメテウスは人類をもっと豊かにしたいと思い、神の世界から盗んだ火を人類にもたらすが、人類は火と同時に争いを始めてしまう(製鉄技術の発達)。つまりプロメテウスは科学技術の恩恵と同時にそれによる災いももたらしたトリックスターです。「プロメテウスの火」という言葉は「人間の力では制御できないほど強大でリスクの大きい科学技術の暗喩としてしばしば用いられる(Wikipediaより)」。
 神取さんはデヴァ・システムを開発していますが、それはもともと瞬間転移装置でした。完成すれば人類にすさまじい恩恵をもたらす発明です。それが偶然、個人(麻希)の精神世界に繋がることを発見。その頃にニャルラトホテプに魅入られ、精神世界を悪用して私的な理由で人類を支配、滅ぼそうと画策します。その方法は、その精神世界で天地創造の力を持つコンパクトを盗み、現実世界に持ち出すというやり方でした。どことなく、プロメテウス的。そしてプロメテウスと言えばパンドラです。火を盗んだことで怒ったゼウスが、人類にさらに災いをもたらすためにプロメテウスの身辺へパンドラと災厄(もしくは祝福)の入った箱を贈ったのです。あとはご存知の通り。
 デヴァ・システムは火であり箱、そして麻希ちゃんはパンドラであり箱、ということだったのかなあ。神取さんはそれを開けてしまった。デヴァ・システムと麻希ちゃんを通して集合無意識の海から悪魔やなんやらが湧いて出てきたのだから、符号しているような気はします。うーん、もっと整理しなきゃですね。

(追記) 書き忘れていましたが、これもこじつけ的符号なんですがアイデアメモとして。パンドラにはトリックスター神としてこれまた有名なヘルメスも関係あります。パンドラが泥から作られたあと、いろいろな神から様々な素養を与えられるんですが、ヘルメスはそのうちのひとり。そして、パンドラをプロメテウスの身辺へ送り込む時に送り届ける役がヘルメスです。そのため、中世の絵画ではパンドラの従者としてセットでヘルメスが描かれている絵が多いです。で、ヘルメスって出生が私生児なんですよ。やっぱ玲司を連想してしまう。ヘルメスは玲司とは違ってうまく立ち回って出世するんですけどw ヘルメスとプロメテウスとは血縁にはありませんが、パンドラを介して二人のトリックスター神が関わるというのはなんだか不思議だなと思いまして。たまたまですが私は麻希ちゃんと玲司をセット(CPではない。実際罪罰ではセットで出てくる)で描くことが多いので感慨深いです。(2017.5.6)


ペルソナシリーズの主人公は「ロウヒーロー」か?
 ※ややP5のネタバレあり注意。
 今回いろいろ考えていて気づいたことが多いのですが、ペルソナシリーズの主人公の立場について。
 ペルソナシリーズの世界は基本的に「ニャルラトホテプ(ネガティブ)」と「フィレモン(ポジティブ)」の戦いで、主人公は「フィレモン(ポジティブ)」側に組します。女神転生シリーズ風に言うと、それは「ロウヒーロー」に該当するように思えます。
 しかしシリーズの世界は毎回「ニャルラトホテプ(ネガティブ)優勢、フィレモン(ポジティブ)劣勢」という状況にあり、逆がありません(P5のことは『付・トリックスターとP5のこと』に書いていますが、本質的に構図は同じ)。もしも逆の状況だった場合も、ペルソナ主人公はフィレモンの側にいるのだろうか?
 ペルソナシリーズに逆の状況が存在しないため、それは謎でしかないのですが、しかし女神転生シリーズをやっている人はおわかりだと思いますが、「LAW過ぎる」のもまたヤバい状況だろう、という感覚があるのです。逆の状況だった時、フィレモンは人類にとって「悪のようなもの」になるはずです。
 私は、ペルソナ主人公が望むのは「世界のバランス」、すなわち「NEUTRAL」であり、その時劣勢の方に組みするというだけなのでは? という風に思うのですが、果たして……。まあでも、それはペルソナシリーズのテーマからはずれていると思うので、議論する自体が無意味と思いますが。
 そういう意味では、P5は一見今までと逆の構図に見せたというわけで、面白いなと思います。これまでのペルソナシリーズでやり得なかったことを、ちゃんとテーマを変えずに体感させたのはすごいです。
 やはりこのシリーズはティーン向けジュブナイルなので、あまり主人公の足元そのものを揺さぶるような選択は迫らないような気はします。実際シナリオはほぼ一本道ですし。そう考えると、真・女神転生シリーズって一歩進んだところにあるのかもしれませんね。その辺を選択しなきゃいけないんだもんなあ……。
 ってここまで書いてて今さらですけど、フィレモンが本当に「LAW」かはよくわからないんですよね。むしろフィレモンの言動には「NEUTRAL」を感じることが多く(私の感覚では)。公式書籍によっては明確に「善だよ」って書いてたりもするんですが、私はちょっと懐疑的。簡単に「善」「悪」で分断できないのが彼らのような気がする……っていうか、そっちの方が面白いと思うのです。フィレモンとニャルラトホテプってなんなんでしょうね。




付・トリックスターとP5のこと [2017.5.2]

 トリックスターについていろいろ調べたり考えたりすると、当然ながらP5のことがひっかかってきます。まだ1周しかしていないし細部をほとんど記憶していないので(ハラハラドキドキでそんな暇ないんですよねえ)ざっくりな話しかできないのですが、少し覚え書き。細かいことをあんまり覚えていないので、見当違いなことを言ってるかもしれませんよ(その状態でよく書いたなってレベル)。
※以下P5ネタバレにつき選択反転のこと。
 P5の世界の状況はどうだったかと言うと、イゴールさんやベルベットルームが力を失っていました。今回も出てはこないけど、フィレモンが著しく劣勢の状態ということのようです。これはつまり、いつものペルソナシリーズと同じ構図だということです(主人公たちはフィレモン側で、ニャルラトホテプを退ける物語)。
 結論から言うと、主人公たちは正確にはトリックスターではなく「ヒーロー」です。ただ、表層的には主人公たちは広義のトリックスターの形をとっており、主人公と世界の関係性の表層的な構図は、トリックスターと世界のそれと重なります。
 表層的には、「主人公は犯罪者という汚名にまみれている(※真実は無実潔白の身)、それは法という秩序が裁いたから(※真実はその内側は汚濁にまみれている、裁きはもちろん不当)→汚濁から現れた主人公は膠着した秩序を打ち破る」。トリックスターと言うよりは、やはりその発展型である後期「ピカレスク」的ですが、「秩序を打ち破る」点では広義トリックスター的と言っていいのではないでしょうか。
 では深層的、本質的にはどうなっているかというと、真逆です。世界は混沌や破滅へ向かっており、主人公がそれを食い止める。つまり、主人公はいつも通りの「ヒーロー」です。いつも通り、というと批判的に聞こえるかもしれませんが、やっぱりこれでいいのです、これがいいのです。ペルソナシリーズの主人公は「HERO」なのです。

 かなり記憶がおぼろげではありますが、今回のラスボスをめぐって考えると、なるほどな〜と思います。
 今回のラスボスは大衆の堕落の指向そのものでした(記憶では。2周目やれよ)。それは「他人任せ」「どうでもいい」「誰かがやるだろう」という「思考の放棄」。それは堕落という流れそのもので、その先には破滅があります。
 物語の中で、大衆は獅童という清浄で秩序的なヒーロー、怪盗団という悪のような反秩序的なヒーロー、どちらを応援するかで騒ぎます。でもそれは突き詰めるとどちらも「自分以外」であり、「どっちでもいい」のです。とにかく自分ではない誰かがなんとかしてくれるだろう、という他人任せが蔓延しています。それはちっぽけな個人が何かをしたって世界を変えられないだろう、という絶望から生まれています。それが今回のテーマであり、ラスボスでした。
 なぜラスボスの外見が清浄な聖杯や神のような形をしているのか。なんか、その辺についてゲーム中で言ってた気はするんですが覚えていないので、自分の解釈。まず単に、主人公たちが表層的に悪っぽいからその対比があると思います。そして、自分たちは間違っていないと思い込みたい表れなのかもしれないし、誰もがやっぱり基本的に、清浄や神聖、正しいものを求めて目指している、ということなのかもしれない。後者ならそれは希望なのかもしれません。
 物語の中で主人公と絆を築いた一部の人々は、堕落の流れの中から自らの足で立ち上がり、自らの意志で怪盗団を応援します。個々が堕落の流れに逆らうことが真の、健康的な清浄さであり、誰かに任せているだけの空っぽの清浄さは破滅でしかない。そして主人公たちも堕落の流れに逆らうちっぽけな者たちであり、皆等しく「ヒーロー」と言えるのでしょう。

 これを書くにあたってラスボスの名前『ヤルダバオト』ってなんなんだろーと検索したんですけど、「グノーシス主義」の中ではこの世界を創造した神は「劣悪な偽の神」で、実は外にもっと良い「真の神」と、もっと良い世界があるのよって話(反宇宙的二元論)で、その偽の神が『ヤルダバオト(ヤルダバオート)』。真の神は『アイオーン』(個体的なものなのかはよくわからないけど)で、それは使者をよこして人間に「実はここはダメな方の世界で、もっと良い世界があるんやで」って知らせて(認知の手がかりを与えて)くれるらしい。そして人間は偽の神に作られたけど、内部には真の神に由来した部分も備わっている、だから頑張れば(?)良い世界が開ける……みたいな?
 なんか、花輪和一さんの『へそひかり』のような話だ。荘園という狭い世界しか知らず、その中のルールに虐げられて生きていた主人公があるきっかけでその事に気づき「そうかわかったぞ、この世はうその世界だ。もっといい本当の世界は別にあるんだ」と言って、荘園の外の世界へ出て行く。それに、トリックスター神話っぽくもありますね。トリックスター神話はP5的に言う「認知」の物語で、トリックスターの起こすなんらかの出来事を通じて、自分を取り巻いている世界を一歩引いて見ることになり、そして何かに気づく、というようなものなのです。例えば、ネイティブアメリカンのトリックスターのコヨーテの話では、コヨーテがお腹を空かせて池へやってくると、池の水の中にプラムがいっぱいある。喜んで取って食べようとすると、水の中にはなんにもない。水に落っこちたコヨーテが池の水面に浮かぶと、池の上に張り出した木の枝にプラムがいっぱいなっている。コヨーテが見ていたのは水面に映ったプラムで、コヨーテにはそれしか見えていなかった(それがコヨーテの認知する世界の全てだった)。でも水に落っこちてやっと頭上という空間に気づいた(外の世界、また今まで全てだと思っていた世界がその一部であることを認知した)。そのあと、コヨーテはプラムを使って他のやつを騙そうとしたりといろいろあるんですけど、要はそういうことなのかな。今まで気づいていなかった事に一歩引いた視点に気づき、新しい世界が開け、新しい方法を見つける。それがトリックスター神話です。P5の「認知」ってこういうことなんですかね。正直ゲームをやってる最中はそれどころじゃなかったのでよくわかってないよ! 合ってる?
 それはさておき、P5の中にアイオーンやその使者らしき何かが現れてしかるべきって感じはしますね。それとも象徴する何かが出ていたのかな…? 
 Wikipediaを見たら、ヤルダバオトという名前の語源の一説に「混沌の息子」というのがあるようで、ちょっとニャル的。P5のヤルダバオトは大衆の集合無意識が召喚したペルソナなのかな? そしてそれはやっぱりニャルラトホテプのひとつの貌だったのかな。
 関係ありませんが、私はP5主人公(通称ぺご君)は玲司の息子の鷹司ではないか説を面白く思っているので(ていうかゲームでぺご君の名前を城戸鷹司にしている)、そんな話もまたいずれ。




玲司の将来は意外ではないという話ーー「恐れ」と「財産」 [2017.5.27]

 以前からぼんやりと、「玲司は異聞録を経なかった場合、将来お母さんが死んだ後に廃人化する」というような一文を読んだ記憶がありました。昨今こんなことばっかり考えてますから、私の脳が作り上げた妄想のような気もして、何で読んだのかなあと長いこと気になっていました。で、最近、部屋のどこかにしまったために見つからず、結局もう一冊購入した『公式ガイドブック』。これに掲載されている一文だと判明しました。妄想じゃなくて一安心ですよ!
 しかし廃人とは、衝撃的です。要はこれは「バッドエンディング」ですよね。もちろん異聞録を経ない、というありえないifではありますが……しかし、セベク編をクリアした人は実際に衝撃だったことがあるはず。グッドエンディングで示される玲司の将来、「高校卒業後しばらくして結婚、子供が生まれる」というものです。みんな「急にどうした!?」って思わなかった? (サトミタダシでのセリフで、ベビー用品の棚を見ているという暗示っぽいものがあるっちゃーあるんだけど、普通は意味があるとは思わないよw)
 しかし、先の『トリックスターの境界に立つ玲司』を書くにあたり、いろいろ整理して考えた結果、初クリア時に意外に思った玲司の将来について、非常〜にピタッとした解答が得られたように感じました。あのエンディングは意外どころか、むしろとても自然、当然のことのように思えます。

 同文章の『玲司の選択ーーもうひとつの力の根源』の章で、玲司の抱えている「恐れ」について書きました。その中では「友達を失う恐れ、その時に傷つく恐れ」について主に触れていますが、それ以前のベースにある、もっとも巨大な恐れが「母を失う恐れ」です。そのために、玲司はお母さんを守ることに全力を注いでいます。玲司が持つ大きな要素「憎悪」も、根源は「母を守る」という愛情表現、すなわち「母への愛」、そしてその表裏一体にある「母を失う恐れ」に根ざしています。
 子供が母親を失うことを恐れるのは当たり前ですが、玲司の場合は特にその気持ちが強いようです。母一人子一人の家庭だから? もちろんそれもありますが、その点で言っても玲司の「恐れ」は標準より強いようです。それは、玲司にはお母さん以外に何も無いからです。お母さんは玲司が持つ唯一の「財産」なのです。
 ここで言う「財産」とはお金や不動産だけではなく、自分自身や家族や友達、思い出などの形の無いものも含みます。手放しで他人に自慢できるような、自分にとって絶対的に価値がある、そういうものです。玲司の財産は母のみ。そう言い切れるのはなぜか? では、玲司に他の「財産」がないか考えてみましょう。
 玲司が持つ「財産」としてほかに心当たりがあるとすれば、外見でしょう。ゲーム中では複数の女生徒にその外見と言動から好意を寄せられています。それから、背が高いのでマークあたりは内心羨ましく思っていそうです(小説版では明確にそういう描写でした)。本来ならば、そういった外見は自分の長所として十分「財産」になるはずです。がしかし、異母兄である神取鷹久のそっくりな外見から察するに、おそらく玲司の外見は父親譲りのもの。玲司が憎み、殺そうとしていた父親、それにそっくりの外見。それは玲司にとって無価値どころかマイナス要素、一種のコンプレックスですらあるかもしれません。
 そして、腕っ節の強さ(暴力)。これは玲司が復讐のための手段として磨いたもので、おそらくお母さんからは不興を買っているでしょう(お母さんは玲司に普通の幸せを願っており、復讐は願っていないと推測される)。母に褒められないものは、玲司としても100%良いものとして捉えることはできず、そこには葛藤があるはずです。価値としては不十分でしょう。また、突き詰めれば復讐は母のためであり、そのための暴力はお母さんがいてこそ意味を成すもの。つまり、お母さんが存在しない時には価値を発揮しません。
 それから得意技である手品。これは平和的だし、玲司本人が努力して手にいれた技術なので、他人に自慢していいもののはずです。が、これはもともとお母さんを喜ばせるために始めたものなのだそうです。これもやはり、お母さんがいた時に初めて価値を発揮するものだと言えるでしょう。お母さんがいなければ、意味を成さないものなのです。(ただし、手品に関しては最も他者に対して能動的な態度が見られ(『ペルソナ倶楽部』では手品に関してだけ本人のコメントがあったり)、比較的独立した「財産」としての存在感を感じさせます。)
 それから先ほど例に出した「友達」については、どうやら良い交友経験が無いことを示すセリフがゲーム中にあります(友達に裏切られた経験があるらしい)。実際、異聞録登場時は意識的に誰とも交友を持っていません。
 「思い出」については、たくさん語られるような場面はないものの、あるとしたらお母さんとの良い思い出か、父親のひどい思い出かの二択と言った印象です。前段で述べたように、交友関係もよろしくなかったようですし。この辺りも、お母さん絡み以外は期待できません。
 ーーそうしたわけで、玲司が手放しで他人に自慢できる「財産」は、自分を愛してくれる母、そして母が存在する時に価値を発揮するもののみ。母がいなければ、玲司の全ては意味を失います(むしろ、残るのは憎んでいる父そっくりの体だけ)。そのため、玲司は「母」という「財産」を失うことを強烈に恐れているのです。
 『公式ガイドブック』の中で、玲司がもしも異聞録の物語を経ないで年月を過ごした場合、母親が亡くなったあと廃人のようになるかもしれない、と述べられていることに最初に触れました。つまり、玲司の持つたったひとつの「財産」である母が失われた時、玲司は空っぽになってしまうということ。玲司には他に何も無いからです。

 「財産」は本人にとって良い「価値」を持つと同時に「財産を失う恐れ」を表裏一体ではらんでいます。財産の「価値」に対する「喪失の恐れ」は比例します。普通の人は、複数の家族や自分自身の長所、友達、場所や物、ペット、思い出など様々な複数のものを財産として持つため、「価値」「恐れ」を自然と分散させています(そして万が一どれか一つを失っても、他のものがカバーして支えてくれるでしょう)。しかし玲司の場合は財産が唯一であるため、「価値と恐れ」が一点に集中し、度を越して巨大化していたのだろうと考えられます。
 公式本『ペルソナ倶楽部』の中で、玲司の愛情表現は「守ること」とされています。もちろん玲司はお母さんを守っているのですが、そこへ友達が入ってくると、友達も守らないといけない。そのために母の守りが手薄になってしまうことに恐れを感じている、というように述べられてます。玲司の中で分散できずに巨大化してしまった「価値と恐れ」は、「新たな財産の拒否」という悪循環を引き起こしていたのでしょう。新たに何かを迎え入れた時、母という財産の「価値」が分散され、薄れてしまうのでは、という不安。また、今持っている財産の巨大な「恐れ」と同じぐらいのものを、新たな財産の数だけ背負わなければならないのでは、という不安。
 そこで異聞録です。この物語の中で、玲司は友情によって「恐れ」ーーすなわち「財産を失う恐れ」を克服しました。それは恐れが無くなったわけではなく、「恐れと対峙する覚悟を決めた」という意味です。そしてそれは同時に「新たな財産を迎え入れる覚悟をした」ということ。異聞録を通して友情や信頼というのもに触れ(麻希と千里のくだりや、南条君とマークのやりとり等)、とうとう母というたったひとつだった財産の隣に「友達」という新たな財産を迎え入れたのです。
 玲司は普通の人々のような「複数の財産」の状態へ一歩踏み出せました。玲司の抱いていた不安は、新たな財産を迎え入れた時に現実化することなのか、それとも取り越し苦労なのか、それは実際にやってみなければわかりません。玲司はその難しい一線を乗り越え、踏み出しました。それは異聞録という特殊な状況下でこそ成せたことなのでしょう。あれほど強烈に友情や信頼を感じさせる状況は、平凡な日常ではありえなかったはずです。ある意味では……あの物語を引き起こした神取さんのお陰、と言えるのかもしれません。

 というわけで、新たな「財産」を迎え入れる覚悟をした玲司のその先に、家族という新しい「財産」、そして特に「世の中にありふれた、ごく普通の財産」をもうける将来が待っているのは、とても自然な流れに思えます。玲司という人物に欠けていた「財産」、それを得るというエンディング。玲司にとって最高のグッドエンディングと言えるのではないでしょうか。もちろん、それはゴールではなく、新たな「恐れ」との戦いの始まりでもあります。その戦いに臨む勇気をくれたのが、「友情」だったでしょう。
 ここで言うまでもありませんが、異聞録を経た玲司は将来母が亡くなる時、廃人になることはありません。玲司には母以外にも心の支えとなる「財産」があるからです。








ぺご君の鷹司君要素まとめ [2018.4.27]

 P5の主人公、ここでは通称「ぺご君」。P5の情報が発表されてから、じわじわと「あれ? この子……鷹司君の要素多くない……?」と、いくつかの符号に気づいたペルソナファンが国内外に多々いらっしゃいます。
 鷹司君とは何者かと言うと、異聞録のメインキャラクターのひとり・城戸玲司の息子です。異聞録のエンディングでは各キャラクターの将来が短く紹介されるのですが、その中で玲司は近い将来結婚し、子供が生まれることが明言されています。そして、異聞録の3年後を描いたペルソナ2罪・罰、とくに罰の劇中において、玲司のもとに近々子供が生まれるという話題が出て来ます。そして、男の子だったら「鷹司」と名付けると玲司本人が言っています。異聞録を1996年、ペルソナ2罪・罰を1999年、P5を2016年の出来事とすると(罰以外いずれも発売年)、玲司の子供が1999年4月2日〜2000年4月1日までに生まれたなら、なんと2016年度には17歳の高校2年生なのです。もちろん、ぺご君は17歳の高校2年生です。すごい符号ではありませんか! そんなわけで、ぺご君の鷹司君要素がいかに強いかをまとめ書きしていきます。

(1)生年の一致
 上記の繰り返しになりますが、生年が条件に一致。鷹司君はP5の2016年に17歳の高校2年生という設定が可能。
 前提として異聞録を1996年、ペルソナ2 罪・罰を1999年、P5を2016年の出来事とします。罰の中で、玲司の恋人の妊娠と近々の出産の予定が明かされています。ただし劇中の時点で妊娠何ヶ月か、出産予定日は、などは明言されていません。また、罪・罰が1999年の何月頃の出来事かも不明です(のはず)。服装からして春か秋といった印象。しかし春にしろ秋にしろ、子供が1999年4月2日〜2000年4月1日までに生まれるのは十分に可能な計算となります。この期間内に生まれれば、P5の2016年度には17歳の高校2年生です。
 なお、玲司の子供が無事生まれることは確定していますが(異聞録エンディングで明言)、実際の性別は明かされていません。女の子の可能性もあります。しかし、「鷹司」という特別な意味のある名前(神取鷹久と自分の名前から一文字ずつを継承している)がわざわざ話にのぼっていることからして、エピソード的に男の子の可能性は高いでしょう。それを裏切るのもまた面白いのですけども。

(2)外見の特徴の一致
 ぺご君は玲司の特徴である天パ&下まつげという特徴を兼ね備えています。
 玲司と言えば血縁者に神取鷹久がおり、この二人はよく似ているとされています(罪・罰では、そっくりなので間違えられる描写がある)。その大きな特徴は「天パ」「下まつげ」「鷲鼻」「長身」といったところ。玲司の子供であれば、これらの特徴を遺伝的に持っている可能性は普通に考えて大です(ちなみに異聞録のエンディングに、生まれた子供が「父親に似て愛想が悪い」というマークの発言が記載されています。ほぼ冗談としても、父親似の可能性はあるでしょう)。そして、ぺご君は「天パ」「下まつげ」を兼ね備えています。そのふたつってペルソナのキャラとしては別に珍しくないんじゃないのと思われるかもしれませんが、歴代主要キャラクターを検証していくと、このふたつの特徴を兼ね備えているキャラクターは玲司、神取、ぺご君以外にいません(のはず)。金子キャラはみんな下まつげなのでは? という疑問に関しては『玲司は下まつげキャラか問題』に詳しいですが、要は金子キャラは全員に下まつげは描写されていないのです。みんなもよく見てみよう。
 なお、ぺご君が天パではなくパーマの可能性はあります。オシャレか。

(3)ペルソナの傾向の一致
 ぺご君と玲司、どちらもペルソナが悪魔系です。

  玲司ぺご君
初期ペルソナの
アルカナ
「ブレス」アルカナは悪魔。「アルセーヌ」アルカナは愚者(※P3以降の主人公の恒例「ワイルド」能力のため、愚者で固定。個性は反映されていない)。
初期ペルソナの
スキル
「エイハ」
ほか、「ツインスラッシュ」「バルザック」「クイッカ」「マカジャマ」「とうしょうは」。
「エイハ」
ほか、「スラッシュ」「スクンダ」「夢見針」「逆境の覚悟」。
好相性のペルソナ悪魔系。ただし、天使系のペルソナは相性最悪だが唯一異例で使用可能なのが「サタン」(審判)(※異聞録にサタナエルの名称は登場しない)。(※ワイルドのため相性無し。)
高レベルのペルソナ「ルシファー」(悪魔)。なお、ルシファーは異聞録の全てのペルソナの中で最もレベルが高いレベル99のペルソナ。レベル90以上のペルソナが全て悪魔絡み。「サタン」(審判)、「ルシファー」(星)、「サタナエル」(愚者)。(※サタナエルはたぶん堕天前なので天使。また、アルセーヌの進化形のためアルカナは愚者に固定。)

 ぺご君はP3以降の恒例である「ワイルド」能力のためパーソナルなアルカナは無いのですが、アルセーヌの進化形であるサタナエルが天使・悪魔絡みであること、高レベルのペルソナがどれも悪魔絡みであること、またエイハなどの呪怨系スキルが得意なことからして、ぺご君の個性が悪魔系統であることは明らかでしょう。アルセーヌも黒い羽を持っており、悪魔っぽい外見です。
 ペルソナの傾向もさることながら、注目すべきはスキルの「エイハ」が異聞録以来20年ぶりにシリーズに復帰したことでしょう。異聞録で初期ペルソナにエイハを持つのは玲司のブレスのみ。ペルソナ2〜4にエイハは存在せず、誰も持っていません。P5ではぺご君の初期ペルソナであるアルセーヌがエイハを持っている……。すごくないですか。もちろん「エイハ」は呪殺・呪怨系(異聞録とP5で呼称は違うがはっきり言って同一)で、悪魔などダークなペルソナが使う特有のものです。

(4)トリックスターと手品師
 P5で多用された言葉「トリックスター」という言葉の直接の意味は「手品師」。玲司の特技は手品。
 「トリックスター」の言葉自体の意味は「手品師」「詐欺師」などです。P5の序盤で、初めて怪盗衣装になったぺご君の格好を見て、竜司君が「怪盗みたい」「泥棒みたい」などと言わず、「マジシャンみたい」と言うのはそのためでしょう。実際、怪盗衣装はそのようなデザインです(そもそも、アルセーヌ・ルパンのシルクハットにフロックコートのイメージはそのまま手品師の格好ですね)。で、ペルソナシリーズで手品と言えば、玲司の専売特許です。そもそも玲司のこの特技もトリックスターを意識してつけられたものではないか……と個人的には思っています(玲司の立場にはトリックスター性がある)。

(5)武器について
 ぺご君の武器がナイフであることについて。罪・罰の頃の玲司が包丁のセールスをしていたという半公式の設定があり、包丁→ナイフ、という符号です。
 (※この「半公式」について説明しておきます。罪罰当時頃の話だそうですが、昔は公式と同人の間が割と自由でして(今ほど厳格でなかった)、ある同人作家の方がこの「包丁のセールス」という案で漫画を描いたところ(商業アンソロだったと思う)、公式がこれに好意的に言及し、広まったらしいです。これが半公式という意味です。ちなみにその作家さんは、のちにメガテン公式のコミカライズなども描かれています。)

 ところでこの話とは別ですが、玲司の武器は健闘具(グローブ)のみと見せかけて、実は初期に他のメンバー全員が装備できる「モップ」「メス」も装備可能です(玲司はレベルが上がってから仲間になるキャラなので、装備する必要がない。けど、実は装備可能)。一応、刃物を持つことができるんです。あと公式のノベライズで、神取さんを殺すためにナイフ持ってました。あかんやろ。

(6)元ネタ『男組』
 玲司の元ネタのひとつに池上遼一の漫画『男組』があります。漫画の冒頭で、高校生の主人公が手錠をして登場するのですが、この鎖のイメージが玲司に反映されているようです(公式本『女神異聞録ペルソナデジタルコレクション』より)。で、男組の主人公がなぜ手錠をしているかと言うと、少年院から転校してきたという設定なのです。学園の校門前にとまった護送車から手錠をした姿で降りてくるという冒頭シーン。P5は主人公が保護観察処分で学園に転校してくるというところが似ていませんか……って言うか、男組要素の濃度で言ったらぺご君の方が玲司越えでは?

(7)善と悪の逆転性
 ※P5のネタバレにつき、選択反転のこと。
 ぺご君と明智君、玲司と神取には対比や重ね合わせの関係を見ることができます。
 ここで急に明智君が出てきましたが、P5の明智君の設定は玲司の設定に酷似しています。出生や行動の目的など、「似ている」というレベルではありません。ちなみに明智君のペルソナ「ロキ」(正義)は異聞録ではアルカナ悪魔で、玲司の最高相性ペルソナのひとつです。キャラクター的な意味ではぺご君よりも明智君の方がストレートに玲司的なのは自明です。
 玲司は異聞録の中で半ば悪、半ば善の半々の立場で描かれています。復讐(殺人)という悪を行おうとしていますが、その動機や最終的な行動は善に組しました(「善と悪」と表現していいかは微妙ですが、ここでは便宜的なものと思ってください)。P5ではぺご君と明智君とが表層と本質で逆転しながらそれぞれ善と悪の立場にあります(表層的には泥棒という悪がぺご君、探偵という善が明智君。本質では善がぺご君、悪が明智君)。玲司的である明智君は、玲司とは違って良い友達を得ることができなかったためか、最終的に悪の立場のまま物語を終えます。
 またトリックスターという役割も、一見ぺご君が持っているとみせかけて明智君も持っていました。そしてぺご君は明智君がトリックスターになることを結果的に阻止しました。玲司もトリックスター的立場を神取と二分し、神取がトリックスターになることを結果的に阻止しました。
 詳しく書くと長くなるのでこの辺にしますが、これらの善と悪、トリックスター・非トリックスターの背中合わせには符号を感じます。


 ……と、言ったところです。どうですかこの符号の数々! 重箱の隅をつついてごはんつぶ美味しい!! ほかにも気付いたことがあったら教えてね!!
 数あるペルソナシリーズの主要キャラクターの中で、子供の存在が明言されているのは玲司たったひとりのはずです。20周年にあたる5作目の年にその子が17歳であることが可能で、見た目もペルソナも似ている。正義と悪の逆転性にもそこはかとなく符号する。こんなことってありますかね!?
 なお今後、普通〜に公式に鷹司君が登場したらそれも狂喜乱舞します。それはそれ、これはこれ! お待ちしております。


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