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あなたは何を見てた? と聞いた。 「てめえ、わかってて聞いてんだろ。……まあな、正月に見るような場所じゃねえよな」 レイジは再び道路の向こう側を見た。深閑として冷たい工事用の外壁が、陽の光を白々と反射させている。ここにセベクのビルがあって、あの日この車道でレイジがひとりで黒服連中に因縁(?)をつけていたな……とあなたは思い出す。マークが割って入って、それ以上のことにはならなかったんだっけ。 そういえばあの時、レイジは黒服に向かって「てめえら死ぬぞ」と言っていた。あれは「殺すぞ」という脅しの意味かと思っていたが……、自分たちが廃工場に行った時もそう言われた。あの時はわからなかったが、レイジは自分たちよりもセベクが行なっている研究について多くを知っていた。あれは「この先に行けば死ぬ危険がある、気をつけろ」という意味だったのだろうか。 「細けえことを覚えてるな、てめえは。……まあな、あそこにはセベクの地下通路があった。あの辺をうろうろして、巻き込まれないとも限らねえ。って、全部説明するわけにもいかねえし、かといって何にも言わねえのも寝覚めが悪いだろ」 全く、親切なのか親切じゃないのか、とあなたは笑った。 「……ずいぶん、昔のことみたいに思えるな」 レイジはまた向こう側の跡地を見ている。しかし口元はちょっと笑っている。どうやら、大丈夫らしいとあなたは思う。 「行くんだろ、アラヤ神社。まあ付き合ってやる」 しょうがないなという口ぶりも、ちょっと嬉しそうに思えた。 あなたはレイジと雑談しながらアラヤ神社へと向かった。 アラヤ神社はいつもの閑散とした様子はどこへやら、参道には屋台がいくつも立って、大変な賑わいだ。 屋台をのぞいてから参拝の列に並び、ふたり一緒に賽銭を投げ入れてお参りをした。フィレモンへの挨拶も忘れずに。 社務所もお守りやおみくじを引く人々で賑わっている。 「おみくじか……正直俺はこういうのはあんま信じないがな。まあいい、来たからには付き合ってやる」 レイジにおみくじの筒を渡された。
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