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 あなたはそのコート、似合ってる、と言った。
「ほんと!? えへへ……これ今日初めて着るの。退院してからお母さんと一緒に選んで……」
 麻希は嬉しそうに返したが、途中で言葉を切った。
「なんだか不思議だね。少し前まで入院してたのが嘘みたい……。私、前からこんな風に街を歩いてた気がするんだけど、それってきっと、あの世界の記憶なんだろうね」
 少し寂しそうに、でも懐かしそうに麻希は病棟を見上げる。
「でも、あの世界にはお母さんがいなくって。今思うと、やっぱりあれって不自然だったなって思うんだ。あんな、不完全で、おかしな世界で満足してたなんて、今は信じられない」
 麻希は少し黙ったあと、ふいにふふっと笑った。
「あっ、ごめんね、新年からこんな話。でもね、私、今年は……じゃなくて、"今年から"もっと欲張りになろうって思ってるの」
 どういうこと? とあなたが聞くと、麻希は胸を張るように姿勢を正して微笑んだ。
「この世界はどこまでも続いていて、私がまだ出会ったことのない人がいーっぱいいて、やろうと思えばなんだってできる世界なんだなって。あの世界には無かった物、できなかった事、想像もできなかった事……やらなきゃ損だよね!」
 そういうことか、とあなたも微笑む。
「もちろん、いきなりは無理だから、ちょっとずつだけどね。もっと元気になって、学校に行って、みんなと勉強したり遊んだり、いろんなことをしたい。だから…… 君、その……協力して、もらえるかな?」
 あなたはもちろんと頷いた。
「えへへ、よかった……ありがとう、今年もよろしくね!」
 麻希は頰を赤らめながら、明るい笑顔を見せた。

 さて、あなたは麻希と雑談しながらアラヤ神社へと向かった。
 アラヤ神社はいつもの閑散とした様子はどこへやら、参道には屋台がいくつも立って、大変な賑わいだ。
 屋台をのぞいてから参拝の列に並び、ふたり一緒に賽銭を投げ入れてお参りをした。フィレモンへの挨拶も忘れずに。
 社務所もお守りやおみくじを引く人々で賑わっている。
「あっおみくじ! ちゃんと元日に引くのっていつぶりかなあ……。はい、 君も!」
 麻希におみくじの筒を渡された。

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